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宮城潤のブログ

牧野前館長インタビューを読んでのつぶやき

4月1日、沖縄県立博物館・美術館の館長に元衆院議員で3月まで公明党沖縄県本部の顧問を務めていた白保台一氏が就任しました。
選挙功労人事とも受けとれる(そうとしか考えられない?)館長人事を受け、美術関係者はもとより、県議会野党各会派、そして広く県民から疑問の声が聞こえる中で、県の文化行政について、とりわけ館長人事の決定過程の透明化を求める文章を沖縄タイムス(4月15日)に寄せました。

その後、石川真生さんの呼びかけで「県立美術館のあり方を考える会」を発足、4月29日にシンポジウムを行いました。

このような一連の流れに対し、同じく沖縄タイムスの紙面(6月2日)に沖縄県立博物館・美術館の前館長である牧野浩隆氏の反論コメントが掲載されました。

牧野氏の発言には、私の指摘を意識したと思われるところがいくつもあります。
しかし、その内容はとても納得のいくものではなかったので、その日の晩、ツイッター上で牧野氏の発言に対する反論をつぶやきました。

今回のブログは、そのツイートをもとに、ほんの少しだけ内容を整理したものです。
参考までに、2つの沖縄タイムス掲載記事を貼り付けますのでご確認ください。
(記事はクリックすると拡大表示され読みやすくなります。)


宮城潤寄稿:沖縄タイムス 4月15日掲載
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牧野浩隆氏インタビュー:沖縄タイムス 6月2日掲載
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(ここからが反論ツイートを整理した内容です)

まず、美術関係者を中心に様々な問題提起がされている点について、「理想論に力点が置かれ、現実に取り組む体制の現状への配慮が欠け、違和感を覚えた」とあります。
博物館・美術館運営は理想を持って行うのは当たり前。それを現実に取り組む体制の現状への配慮が欠ける、としているのは、現実の体制が理想を実現しにくくなっているということを意味しています。

また、博物館・美術館の建設に至る紆余曲折をきちんと踏まえていない、として、95年にできた「基本計画」は、予算規模を小さくして再開した時点でなくなったことを理解しなくてはならない、と述べています。
しかし、開館前年の06年に開催した「美術館問題について大いに語る会」と沖縄県との意見交換会において、基本計画の見直しがどのように行われたのかという私達の質問に対して、当時の担当課であった文化施設建設準備室長は、博物館と美術館は予算縮減でひとつになったが、運営面では基本計画は生きており、計画に沿って行う。と回答していました。
我々の、あらためて実施計画を策定する必要があったのではないか、という主張に対して、沖縄県として、95年に策定した基本計画は生きている、と説明していたのです。
牧野氏は、美術関係者の問題提起を、博物館・美術館建設の紆余曲折を踏まえていないと切り捨てていますが、実は、建設に至るまでの紆余曲折を踏まえて運営面の検討をしなかったのは県のほうなのです。
ちなみに、牧野氏は当時の副知事。それが今では、当時の沖縄県の回答とは異なる発言をしているということになります。

建設着工後に①指定管理者制度の導入②当初の名称から「現代」が外された③館長体制が一人、ということが美術関係者の間で問題になったことについては、行革の一環、県民の鑑賞の幅が狭まる、ひとつの館なので館長は一人、としています。

これらの説明は、開館前に問題として指摘されたときの回答と全く同じですが、ここで問題として取り上げているのは、この3つのことがらに対しての価値観ではなく、このような重大事項の変更を誰がどのような手続きで行ったが明らかではないということ。
そしてそのことについて説明責任を果たしていないことです。問題とされていることの本質には触れず、これまでの主張を繰り返しているだけだと感じました。

続けて、県には既存の美術館はなかったため、支援団体や指定管理者を含めた管理体制を一から作り上げるのはものすごい作業だったと述べています。たしかにそうだと思います。現体制は、まとめるのに苦労する複雑な運営体制です。
その複雑な運営体制ゆえに学芸員や内部スタッフは本来業務以外での調整に時間を割かれることになってしまいます。

最初に、現実の体制が理想を実現しにくい体制になっているということを述べました(牧野氏自身そう言っている)が、その体制を作ったときの副知事が牧野氏なのです。
開館前に「大いに語る会」や多くの関係者が問題提起していたのは、現在の体制ではどうしても運営しにくい状況になる、ということが想像できたので、だからこそ少しでも良い方向にいくように提言していたのです。にもかかわらず、県はそのまま押し通した結果、管理体制を作り上げるのに余計に苦労をして、理想と現実を区別しなければならない状態になっているのです。

そして、展示の実績として、通常3年かけて調査する企画展を半年にして展示本数を増やした、と誇らしげに語っていますが、問われるのはその内容です。
これまで美術館で勤務した経験のない学芸員(本来は教職員)がわずか半年の調査期間で展覧会を作り上げるというのです。これでは無理があります。
現場の学芸員は一生懸命やっているのを知っていますが、この体制ではいくら頑張ってなかなか成果にはつながりません。

牧野氏が館長時代に最も批判された、外部キュレーター企画の「アトミックサンシャイン」展で天皇をモチーフにした作品を展示拒否したことについての弁明もあるのですが、このようなトラブルが表面化したのも複雑な運営体制ゆえだといえるでしょう。トラブルの回避、対処についても経験者がいない体制が災いしたとように思います。
繰り返しますが、このような体制を作ったのは牧野氏が副知事を務めていたときの県政です。

また石川文洋展でも内覧会のあとに展示作品を取り下げたことがありました。こちらは県の学芸員が企画したもの。しかも県の収蔵作品です。学芸員が調査研究を重ねて収集し、企画した展覧会をオープン直前にまったくの独断、個人的な価値観による判断で内容変更したのです。
このほうが大きな問題だと思うのですが、紙面上では、石川文洋展については一切触れていません。

開館4年目にしてようやく体制が整ってきたところで、今年は20人の学芸員全員がそれぞれのテーマを研究発表するよう取り組んでいるということです。これはたいへん喜ばしい。
しかし先にも述べたように、満足に調査研究ができる体制ではないので現場に無理が出ているように感じています。それをどのように改善していくのかという方策はみえてきません。

続けて、外部機関が必要だと指摘されている件について、「沖縄の知性の先端が集う諮問機関の博物館・美術館協議会があり、実態も知らないまま批判するべきではない」とコメントしています。
では、これまでのトラブルや指摘されてきたさまざまな問題に対して、「沖縄の知性の先端」はどのように関与したのでしょうか?
その動きは全く見えてきません。
博物館・美術館の設置条例をみて「協議会」なるものが存在することは知っていますが、それが機能しているとはとても考えられません。
今回の館長人事に関しても、各方面から問題視する声が上がっていたにも関わらず、「協議会」の存在が表に出てくることはありませんでした。
「沖縄の知性の先端」は、その程度の存在ということでしょうか。
「協議会」委員を誰がどのように選び、どのような権限が与えられ、そこでの意見がどう反映されるのか、それを県民にも見えるようにする必要があると思います。

また、私が指摘していたのは外部の「評価委員会」の設置の必要性です。中長期、そして年度ごとに目標を定め、評価の指針を打ち出し、それに即して評価する利害関係のない中立的な外部機関が必要だと考えています。現在の運営は行き当たりばったりにしか見えないので、しっかりと目標を持って活動して欲しいと願っています。

ちなみに、開館前は、展示企画アドバイザー会議という諮問機関がありました。そこには、県内外の美術館運営の専門家が複数名参加し、熱心にアドバイスをしていたそうです。しかし、会議で話し合われた内容を県内部で検討された様子はなく、しだいに会議の開催自体が見送られるようになっていったそうです。
指定管理者制度の導入や館の名称変更、館長配置など重要事項の変更は、正式な諮問機関であるアドバイザー会議に意見を聞くこともなく、県内部で素案を作り、博物館学やアートマネジメントの研究者や専門家が一人もいない有識者会議「沖縄県立博物館・美術館のあり方を考える会」(座長:尚弘子)を急遽立ち上げ、A案、B案どちらがいいですか?というふうに聞いて決定したのです。
この非礼にアドバイザーとして委嘱されていた委員は当然腹を立て、事情を知っている県内委員2名が開館直前に辞任、県外委員の3名は開館後に会議に呼ばれ、その場で解散を言い渡されたそうです。

熱意のある外部委員会を、結果的に排除し、実質的に機能していない組織を持ち出して、外部委員会は存在する、と主張しているのです。こちらが実態を知らないのではなく、牧野氏自身が実態を隠すような発言をしているのです。

「天下り」という批判に対しては、非常勤で賞与や退職金もないので批判にあたらないとしています。たしかに牧野氏のこれまでの経歴からすると「天下り」というほどうまみのあるポジションではないかもしれません。しかし月16日出勤で50万円の給与は、私達貧乏NPOからは考えられないほどの好条件です。
牧野氏が館長に就任した際、県は経営手腕を買っての人事だと説明していました。その経営手腕がどのように発揮されたかはみえてきません。本人にとって満足いくような給与をもらっていなかったにしても、与えられた職責があるはずです。
県から求められた役割を果たすことができたのかどうか、本人評価だけではなく、しっかりと検証すべきだと思っています。

また、「天下り」という批判は、条件から言われているのではありません。館長人事の決定プロセスが不透明だからです。
館長の人選については、博物館・美術館の現状と課題を客観的に検証、分析したうえで、理想の館長像を導きだし、それに近い人材を捜しだすべきだと思います。そしてその過程はできるかぎりオープンにするべきです。
しかし、牧野前館長、そして今回の白保館長の人事に関して、どのような観点で、どう検討して決定したのか、納得いく説明はされないままです。

指定管理者制度導入についても結果として大成功だった、としています。財務が苦しい中でよくやった、と評価しているのですが、内実は相当厳しいようです。館運営は委託費ではまかなえず、指定管理者の親会社である沖縄タイムスがアカの部分を補填してどうにか維持しているらしいという話を聞いたことがあります。

県が抱える可能性のあった負担部分を代わりにもってくれたので、指定管理者制度の導入を大成功としているのでしょうが、これは本当に成功なのでしょうか。
指定管理者制度導入の評価について、県民への教育的効果など美術館の果たすべき役割や機能という観点からの発言がないところから、牧野氏の館運営の姿勢が見える気がします。
いったいどの立場にたって、どのような指標で評価しているのでしょうか。

最後のくだり、沖縄は47分の1ではなく46対1になる、というところがあります。
沖縄の独自性・優位性を発揮したいという気持ちはわかるし賛同するところですが、そのための仕組みや体制はつくれていない、つくろうともしていない、という印象を持っています。
経験を積んでない上に十分な調査研究の時間を与えられず、多くの展覧会を企画しなければならない学芸員や内部スタッフの状況を考えると現場を回すだけで精一杯なのではないでしょうか。

沖縄の独自性や優位性というのはよく言われることで、なんとなく聞こえもいいのですが、それはいったい何なのか、それを館運営に活かすにはどうすべきか、ということが伝わってきません。
本当にそのような気概で館運営をするのであれば、県として長期ビジョンを明確に打ち出す必要があります。
館長の最も大事な仕事は、みんなが共有できるビジョンを打ち出すことだと思います。


県の学芸員や指定管理者スタッフ、支援会、そしてアーティスト。美術館に関わっている知り合いはたくさんいます。
それぞれが前向きに良くしていこうと頑張っています。そして周囲の人たちもできるかぎり協力していこうと思っています。
でもなかなかうまくいかないというのが現状です。

まだ経験が浅い、というのはひとつの理由でしょう。
でも経験を積めば改善していくのかというと疑問が残ります。それは、ノウハウを蓄積できる体制になっていないからです。
思いのある人が無理をして頑張る、それでどうにかぎりぎりで運営しているものの、なかなか先に進むことができません。

複雑でちぐはぐな運営体制を独自性と勘違いしているようにも感じられます。
理念と裏付けになる根拠があって「他にはない」枠組みにしたのならわかるのですが、どう考えても「行き当たりばったり」でつくったようにしかみえません。
しつこいようですが、この枠組みをつくったときの副知事が牧野氏なのです。


元衆院議員の白保さんが館長に就任したことをきっかけに動き始めた「県立美術館のあり方を考える会」の活動、それに応える形での牧野さんのコメント。
しかし、内容はこれまでの批判を弁解しただけでした。
そして、博物館・美術館開館までの経緯や内部事情を知らない一部の美術関係者が騒いでいるだけ、という印象にして、問題を矮小化するような発言が目立ったのが気になりました。
現在の博物館・美術館運営の枠組みをつくった当事者で、開館から3年4ヶ月も館長をしていた立場から、館運営はうまくいっていますよ、とアピールしたくなる心情はわからなくもないのですが、本当にうまくいっているのでしょうか。
館長経験者にしかわからない課題もきっとあると思います。
そのような経験を踏まえて、前館長にしかできない前向きな提案をしてほしかったです。
正直、がっかりしました。


あ、そうそう。
沖縄県のホームページから下記の問い合わせをしてみました。
返事が来たら、またご紹介します。

ーーー
6月2日の沖縄タイムス紙面において、牧野浩隆前館長が「本年度は学芸員20人がそれぞれのテーマについて研究し発表するよう取り組んでいる」とコメントしていますが、学芸員それぞれの研究テーマと、いつ、どのような形で発表されるかを教えてください。

(一部事実関係に誤りがありましたので、6月13日午前8時に修正しました。)
by junmiyagi | 2011-06-13 23:06 | アート